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【RWC2015特別レポート】第5回 ラグビーワールドカップ2015は、ベスト4が出揃う 敗者の振る舞い、サポーターの温かさが心に響く

オーストラリア対スコットランド戦の試合後のトゥイッケナムの構内

 

激闘続いたトゥイッケナム
ウェールズ、スコットランド惜敗

 

激闘が続くラグビーワールドカップ(RWC)2015は、決勝トーナメントに入ってさらに熱量が増し、特にトゥイッケナム競技場の2試合は最後まで勝敗の分からない接戦になった。僕は、JSPORTSの解説者としてこの2試合を担当し、現場に居合わせることができた17日の試合では、競技場の周辺を南アフリカ、ウェールズのサポーターが練り歩いていた。応援するチームのジャージーを着る人、国旗をマントのように羽織る人、なかには国旗模様のジャケットで決めるファンも。周辺のパブは人であふれかえり、いよいよ優勝争いが本格的になってきたことを感じさせた。

  オーストラリア対スコットランド戦の試合後のトゥイッケナムの構内

とにかく、ラグビーファンはよくビールを飲む。試合開催日は朝から晩までお祭りのようなのだ。昼からビールを飲んで大いに試合の展望を語り、メインイベントである試合を見届けると余韻を楽しみながらビール片手に談笑する。もちろん、ノンアルコールだってかまわない。自制心を働かせながら、試合前後の会話を楽しむのが大人のラグビー観戦術である。

 

オーストラリア対スコットランド戦の前、トゥイッケナム構内にある二階建てバスのパブ

優勝候補の一角である南アフリカに対し、ウェールズは主力に負傷者が相次いで苦しい布陣だったが、サポーターの大声援を受けて健闘。ひとつのミスも許されない緊張感の中での激闘に会場のボルテージは最高潮に達した。試合を決めたのは、相手陣深くのスクラムからのサインプレーでワンチャンスを生かした南アフリカ代表キャプテン、フーリー・デュプレアのトライだった。

 

ウェールズ敗戦後

試合後、日本ラグビー協会の副会長で、アジア人で唯一ワールドラグビーの殿堂入りをしているレジェンド坂田好弘さんに会った。僕の大学ラグビー部時代の恩師でもある。「感動したね、すごい試合だった。ウェールズの人達も優しかった」。2013年、ウェールズ代表が来日したとき、坂田さんはチームの選手や関係者を奈良や京都の観光に連れて行き、自宅に招くなど交流を深めた。今回は逆にウェールズの人達に歓待されたという。坂田さんは選手の試合後の態度にも感銘を受けていた。「あれだけの試合をして負けたら、どれだけ悔しいか。普通なら立ち上がれないくらいだと思う。それをすぐに相手を称え、花道を作って送り出す。その感情のコントロールはたいしたもの」。2011年大会では3位に躍進し、2015年大会の優勝を期待されながら、その後は思うように結果が出ず、今大会前も負傷者が続出した。そんな苦境の中で「死のプール」と言われた強豪揃いの一次リーグを勝ち抜き、ようやく迎えた準々決勝だった。選手の心情は察するに余りある。ノーサイド後は、健闘むなしく敗れた選手達へサポーターから温かな拍手が送られていた。

 

翌日のオーストラリア対スコットランド戦も、終了間際の逆転PGでオーストラリアが35-34で勝つという白熱の戦いだった。難しいPGをすべて決めながら、トライ後のゴールを1本外したスコットランドのSHグレイグ・レイドローは立ち尽くし、涙を流した。しかし、あらんかぎりの力を出し尽くして戦った選手に「あれが入っていれば勝っていた」などと誰が言えるだろう。ここまで来ると勝敗は時の運である。試合後は、当然のごとく両チームのサポーターが杯をかわす姿があった。あのときのプレーの判断はどうなの? レフリーの判定はおかしいのではないか?などなど、ああでもない、こうでもないと語り続ける。その姿を眺めながら、2019年の日本でもこんなシーンが見たいと心から願った。ただ待つのではなく、こういう空気を日本のラグビー関係者、ファンで力を合わせて作っていかなくてはいけないのだろう。

 

準決勝は南半球勢の激突
好調オールブラックスは次が山場か

 

オーストラリア対スコットランドの国歌斉唱

スコットランド戦で逆転PGを決めたオーストラリア代表SOバーナード・フォーリーについて、当日のプログラムに記事が出ていた。タイトルは「彼をアイスマンと呼ばないで」。プレッシャーのかかる大事な局面で冷静に試合を決めるようなプレーをすることでアイスマンと呼ばれているらしいのだが、当人はこの呼び名を気に入っていない。映画のアイスマンでは、アイスマンは死んでしまうか、雪山に消えていくからだ。「彼はまだ終わっていない」と記事にあったが、その通り、フォーリーは生き延びた。前半にトライ後のゴールを3本外し、後半もキックをチャージされてトライを奪われるなど、もし負けていたら戦犯になるところだったが、最後のPGは冷静沈着に決めて見せた。本人の願いとは裏腹に、フォーリーはこれからも「アイスマン」と呼ばれることになりそうだ。

 

準決勝に残ったのは、すべて南半球のチームとなった。この四カ国による「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」(TRC)でしのぎを削っていることが全体のレベルアップを促していることは間違いない。世界最強のニュージーランド、それに次ぐ実力者の南アフリカ、オーストラリアの三カ国で行われていた「トライネーションズ」に2012年からアルゼンチンが加わった。その後のアルゼンチンは急速に力をつけている。今回の準々決勝でアイルランドに勝った試合でも、欧州王者に対してコンタクト局面でまったく引かずに前に出続けていた。この8月には南アフリカを初めて破り、4チーム中3位になっている。アイルランド撃破は番狂わせとは言えない。

 

準々決勝までの戦いぶりを見る限り、ニュージーランドが攻守両面において頭一つ抜け出しているが、南アフリカが激しいプレッシャーでミスを誘い、スクラム、ラインアウトなどセットプレーの多いタイトな試合に持ち込めば勝機がある。グラウンドを広く走り回るような時間が多くなるとニュージーランドが圧倒的に有利だろう。オーストラリアはスクラムの安定が勝つための最低条件。アルゼンチンにスクラムで圧力を受け、反則を重ねれば決勝進出は難しい。逆にここが安定すればトライを奪う決定力では上だ。アルゼンチンが初の決勝進出を果たせるのかどうかも含め、興味深い準決勝になる。

 

今大会は、ここまでプール戦40、準々決勝4の計44試合を消化。観客動員は、2,181,640となって準決勝で史上最多の観客数となることが確実になった。しかし、準々決勝の南アフリカ対スコットランドは、79,572人、オーストラリア対スコットランド戦は、77,110人と、8万人以上収容できるトゥイッケナムが満杯にはならなかった。ホスト国のイングランドが敗退したからだと推測できるが、このあとの準決勝2試合、3位決定戦、決勝でどこまで観客数を伸ばせるのか気になるところ。

 

日本では日本代表選手がメディアに頻繁に登場し、空前のラグビーフィーバーになっているが、RWC2015の優勝争いも佳境に入る。日本で開催される2019年大会を想像するためにも、ぜひご観戦を。激戦必至。4年後が待ちきれなくなるのは間違いない。

 

 

◎準々決勝(※日本時間)

10月24日(土)=南アフリカ 対 ニュージーランド(※25日0:00)

10月25日(日)=アルゼンチン 対 オーストラリア(※26日1:00)

 

 

TEXT by KOICHI MURAKAMI