My RWC2015 stories vol.3

【RWC2015特別レポート】第3回 プール最終戦に向かう日本代表 新たな歴史を、もう一つ加えることができるのか

ルーク・トンプソン選手

 

勝利に徹したサモア戦は
日本代表の成長の証だった

 

芝生に突っ伏して動けなくなったトンプソンの姿に涙腺が緩んだ。サモアを下し、史上初のラグビーワールドカップ(RWC)2勝目をあげたノーサイドの瞬間のことだ。最後まで体を張り続け、ボールを守るために身を投げ出し、サモア選手の強烈な当たりを食らったのだ。その姿は、南アフリカ、スコットランドという強豪国と戦い、満身創痍の中で身体能力の高いサモアの選手達を封じ込めることが、いかに難しいことかを表しているようでもあった。

 

スコア上は、26-5と快勝に見える。4トライのボーナス点を狙いに行くべきだったのではないかという意見が出るのも当然だ。しかし、サモアはほんの少しでも隙を見せればトライを畳み掛けてくるチームだ。リーチ マイケルキャプテンが「ボーナス点は頭にあったが、まず勝つことが重要だと思った」というのは、それだけサモアの圧力が強かったという選手たちの体感でもあるだろう。

 

試合を数字で振り返ると、日本は146回のタックルをして、31回も外されている。一方のサモアは、185回のタックル機会で25回のミス。タックル成功率はサモアのほうが高い。また、ボールを持って進んだ距離の合計も、サモアの502mに対して、日本は343m。日本が、59%のボールを保持していたにもかかわらずだ。突破力ではサモアが上。つまり、日本代表の運動量が少しでも落ちれば危ない試合だった。だからこそ、最後まで集中力を保ち、ミスと反則を極力減らしながら快勝した日本代表は世界のラグビー関係者から大いに称賛されているのである。

 

80分間、肉体をぶつけ合うラグビーに「まぐれ」はない。完璧な試合ができれば、南アフリカ、サモアに勝つレベルまで日本代表は成長した。そのことが素晴らしいし、それを多くの日本の皆さんが見てくれたのも嬉しい。サモア戦を生中継した日本テレビの視聴率は、平均視聴率が関東地区で19.3%、瞬間最高視聴率は、関東地区が25.2%を記録した。「ラグビーの視聴率は視力程度」と揶揄(やゆ)された時代が懐かしい。また、約3000人を集めた秩父宮ラグビー場はじめ、全国各地でパブリックビューイングも開催された。2019年のRWCを開催する都市も大いに盛り上がった。南アフリカ戦では6都市にとどまったパブリックビューングが歴史的勝利でサモア戦では11都市に増えたという。日本代表が勝ったことでさまざまな波及効果が生まれている。2019年大会を成功させるため、開催都市の皆さんの士気も高まっただろう。

 

RWCのアメリカ戦初勝利をあげ
世界からリスペクトされるチームに

 

さあ、いよいよプール最終戦のアメリカ代表戦である(日本時間12日、朝4時キックオフ)。ジョーンズHCはサモア戦勝利後、「これまでRWCで1勝しかできていなかったチームが本大会で2勝し、日本ラグビーの歴史を変えることができた。次のアメリカ代表戦が重要。その試合で日本が素晴らしいラグビーをしていることを証明できる」とコメントした。大会前、ジョーンズHCは2つの目標を掲げていた。「決勝トーナメントに進出すること。世界からリスペクトされるチームになること」である。

 

プールBで2位以上に入り、決勝トーナメント進出ができるかどうかについては、南アフリカ、スコットランドの勝ち点次第。日本がアメリカと戦う時にはプール2位以上の可能性について答えが出ているが、もし行けなかったとしても、過去のRWCでアメリカに2敗している日本としては、アメリカからのRWC初勝利というモチベーションがある。南アフリカ、サモア戦勝利の価値をさらに高めるためにも負けられない一戦だ。アメリカはサモア同様、個々の運動能力が高く、パワフルだ。ただし、10月8日に南アフリカ戦があり、メンバーを大幅に入れ替えたとしても疲労の蓄積は日本以上のはず。南アフリカ、スコットランドに比べればディフェンスの圧力は強くない。日本の攻撃的スタイルが通じるはずだ。攻守に辛抱強く戦えれば勝利は自然に転がり込む。2勝したことを過信せず、慎重に試合を運んでもらいたい。

 

南アフリカ戦のトンプソン選手

 

最後に、もう一度トンプソン ルークについて触れたい。11年前、生まれ故郷のニュージーランドから日本にやって来た。当初は2年ほどプレーしたら帰ろうと思っていたが、日本が気に入り定住した。196㎝、110㎏のサイズはニュージーランドのロックとしては小さい。しかし、運動量豊富なスタイルは日本のラグビースタイルの中でこそ輝きを放った。高いボールに強く、タックルしながら相手ボールに絡むなどの小技もあり、今や日本代表に欠かせない存在だ。なにより、毎回の練習、試合で絶対に力を抜かない姿勢が日本の選手たちから絶大な信頼を得ている。だからこそ、彼は日本代表として3度目のRWCの舞台に立っているのだ。

 

南アフリカ戦翌日、顔にいくつもの傷を負ったトンプソンが記者会見に臨んだ。報道陣からコンディションを問われると、「ブサイクやけど、絶好調」と関西弁で答え、不意をつかれた報道陣にスルーされた。隣に座った立川理道と笑顔を交わしていたのは微笑ましい光景だった。もちろん、トンプソン以外の選手達も体を張っている。2019年RWC成功のため、日本ラグビーの未来のために戦い続ける日本代表選手たち。もしかすると、アメリカ戦がRWC2015の最後の戦いになってしまうかもしれない。日本ラグビーの新たな歴史を作り、ファンの皆さんに幸せを運び、新たなファンを獲得してくれた選手たちを、できるだけ多くの人々に見守ってもらいたい。それぞれの選手たちが積み重ねてきた努力が、最高の結果と内容で報われることを祈りながら。

 

TEXT by KOICHI MURAKAMI